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【排泄リハ】「できるADL」と「しているADL」が乖離しやすい6つの原因と対策
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【排泄リハ】「できるADL」と「しているADL」が乖離しやすい6つの原因と対策

片麻痺患者の排尿動作(病棟内歩行非自立群)

岩井らは、回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中患者51例を対象に、「できるADL」と「しているADL」の得点差をADL項目ごとに求めたところ、入棟月において低FIM群(53点以下)では、全体的に得点差が生じ、特に、トイレ動作、更衣の上半身・下半身で得点差は著明であったと報告しています。

  • 岩井信彦ほか.回復期脳卒中患者の「できるADL」と「しているADL」の格差:FIMによる評価比較.神戸学院総合リハビリテーション研究.2(1),2007,75-81.


さらに、上田は、片麻痺患者の排尿動作の「できるADL」と「しているADL」を検討し、訓練時と実行時の方法が同じなのは23名中1名(4.3%)のみで、統一されていないと報告しています(上図)。

  • 上田敏. 日常生活活動を再考する:「できるADL」,「しているADL」から「(将来)する(ようになる)ADL」へ.リハ医学.30,1993,539-549.


これは、ADL訓練時では、一つ上のレベルの動作獲得を目指しているからとも考えられますが、病棟との連携がうまくとれていない可能性もあります。

実際、訓練中に、尿意の訴えがあった場合、理学療法士・作業療法士は介入せず、看護師、介護士に任せている病院・施設もあると聞きます。

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1:環境条件

模擬的な訓練場面では、難易度も調整しやすいですが実際のトイレ空間では、尿意が迫った切迫した状況や、便器から前壁・横壁までの距離を含めた空間の問題、手すりの位置、素材、便座の高さ、照明の明るさなどの違いも動作に影響を与えます。

また衣類の種類によってもズボンの上げ下げの難易度が変わってきます。

対応

なるべく早期に、転帰先のトイレ環境を把握し、同じような環境下で実際に排泄を行っていく必要があります。「家屋評価チェックシート」などを早期よりご家族に渡し、トイレに関しては、「入口の幅」、「入口の段差(ある場合のみ)、「手すりの有無、種類」、「便座の高さ」を確認します。

さらに、実際に家屋評価を実施し、退院前には外泊訓練なども促しています。外泊時にも、「外泊時チェックシート」を使用し、外泊中にトイレで困ったことなど、アンケート形式で確認しています。便器から前壁・横壁までの距離はズボンの上げ下げには大きく関わります。


病棟トイレは広いので問題なくても、ご自宅のトイレでは壁までの距離が1m以下の場合も多くありますので、それに合わせた訓練が必要です。

衣類に関しては、通気性もよく尿とりパッドがしっかり固定でき、漏れが軽減できる布パンツであったり、お尻の部分が引っかかりにくいズボンやおむつなども開発されています。

2:体力

訓練だけで疲れてしまい、病棟では動作が困難になり介助が必要なことも少なくありません。

排泄動作が自立している片麻痺者28名で、ズボンを下げて上げる動作遂行時間の平均は約20秒で、30秒以上かかる片麻痺者の割合は約14%であったと報告しています。

  • 岩田研二ほか.”在宅脳卒中片麻痺者の排泄動作と立位バランスの関係”.PTジャーナル.46,2012,1137-1142


最低でも30秒以上、安定した立位姿勢を保持する能力が必要であるといえます。 

対応

訓練時間には限りがあるため、自主トレーニングを含めて病棟との連携を強化していく必要があります。

具体的に、「30秒以上安定した立位姿勢を保てる」という目標を、本人、家族、医療従事者で共有していくことが大切です。

3:習熟・習慣化

努力感なしに自然に行えるようになるまで繰り返し実行し、いわば「からだで覚える」までになる必要があります。

動作遂行時間やズボンの操作回数も、練習を重ねると、同じくらいの時間、回数になってきます。入院中の生活の場は病棟であり、排泄も訓練時間よりも、それ以外の時間でトイレに行く場合が多いと思います。

訓練場面で一回できたからといって、病棟トイレで同じようにできるとは限りません。

対応

「しているADL」、「するADL」の環境設定に合わせて、繰り返し練習をする必要があります。

大高は、動作の習熟には3つの要素から成り立っており、①安定性、②効率性、③正確性のトレードオフの関係が大切であると述べています。

  • 大高洋平:動作を学習する際にどんな習熟をめざすのか.長谷公隆(編).運動学習理論に基づくリハビリテーションの実践,医歯薬出版株式会社,2008,50.

著者も臨床場面では3つの要素の優先順位を決めるようにしています。例えば、トイレ動作でも、安定性を高めれば、効率性や正確性は相対的に低くなる可能性があるということです。

運動を学習していく過程で、3つの要素のバランスを考えていき、方法を統一していく必要があります。

ADLカンファレンスを実施し、乖離が起きないように努力しましょう。

4:患者と家族の理解

ときに、患者や家族が訓練室でやることだけがリハビリテーションであり、病棟先でのトイレ動作の自立がリハビリテーションの重要な目標であることを理解していないことがあります。

杉浦らは、移動手段が車椅子となった脳卒中患者の自宅復帰条件には「食事」と「トイレ動作」が求められ,患者の家族とは入院当初から自宅復帰に向けた展望の共有が重要となると報告しています。

  • 杉浦徹ほか.回復期退院時の移動手段が車椅子となった脳卒中患者に求められる自宅復帰条件 -家族の意向を踏まえた検討-.理学療法科学.2014,779-83.


また、尿失禁に対しての患者と家族の理解も必要です。

対応

「排泄自立」の重要性を本人、家族になるべく早期から指導していく必要があります。

また、脳卒中発症後は、排尿症状を有する可能性を、本人、家族も知らないことがあります。

昨今、少量タイプの失禁パッドなど数多くの種類がありますが、購入に躊躇してしまい、生理用ナプキンで対応している女性も見受けます。

皮膚トラブルにつながることもありますので、正しいパッドを選択することも大切です。入院中から本人、家族に試供品を見せて提案するとよいと思います。

5:自立意欲の低下や依存心

前述した体力低下や家族関係などの客観的理由により、意欲低下を引き起こしている可能性があります。

また、脳局在症状による影響や他の因子も考えられます。

尿失禁、OAB、夜間頻尿とうつ傾向(GDS得点)には関連があります。

  • 池田義弘ほか.高齢者のうつと排尿障害.Geiatric Med. 45(4),2007,465-468.

本来、排泄行為はとてもリラックスできる環境で行うものです。

患者の心理状況としては、医療従事者とはいえ、やはり誰かのお世話になることは極力避けたいはずです。

そんな中で、医療従事者から動作を性急する言葉をかけられると、緊張してしまい、過剰努力を引き起こし、転倒するリスクが高まります。

また、一度転倒を経験している患者は転倒恐怖心が強く、全身の筋緊張を高めてしまうため、注意が必要です。

  • 岩田研二.トイレ動作.リハビリナース.8(3),2015,54-58.

対応

なるべく患者にリラックスできる環境をつくるように、医療従事者みんなで話し合うことや、転倒リスクのない患者の排泄中はカーテンやドア越しの外でまっている配慮も必要です。

「まだ出ませんかー」などの声かけは、絶対にやめてください。

6:周囲の過保護、不必要な介護

「自立を目指した介護」の原則と技術を、看護・介助者(家族を含め)によく教え込むことが重要です。

トイレ動作は、日常生活のなかで、毎日5〜10回程度経験します。

介助者の負担も大きく、できるだけ短時間で済ませたいと考えてしまい、ついついズボンの上げ下げを、患者が時間をかければ一人で行える場合であっても、介助してしまうことがあります。

対応

できる能力があるのであれば、ゆっくり待ってあげることも大切です。

療法士もなるべく病棟トイレでの訓練を増やしていき、担当看護師、介護士と目標の共有をしていく必要があります。

小池が作成した車椅子使用者の排泄動作評価のチェックシートなどを使用していくことも適切な支援をするうえで大切です。

・小池祐士.トイレ動作の基本&つまずきポイント(全介助〜重介助の場合).リハビリナース.10(1),2017,47.より引用

まとめ

「排泄ケアなくしてリハビリテーションなし」。

排泄という行為は人間の尊厳における最後の砦です。

医療従事者がチームとなり、病棟トイレでの自立をゴールとするのではなく、転帰先でのトイレ環境に合わせた支援を行っていく必要があります。

排泄ケアのポイント

1 病前の尿失禁の有無、排尿回数(日中・夜間)、下着の種類なども確認しておく。

2 家屋評価チェックシートなどを使用し、転帰先のトイレの環境を把握し、する(ようになる)動作に近づけた環境下で練習を行う。

2 ズボンの上げ下げは、安定性・安全性・効率性の3つのバランスで考える。

4 本人、家族、医療従事者で「排泄の目標」を共有し、ADLカンファレンスなどで連携を強化する。

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