どうも!
オムツを真面目に考える男、「オムツマン」です。
介護現場で医療・介護職が難渋するのが、認知症の方の排泄に関する問題だ。
便いじり(弄便)や、何回も「トイレに行きたい」と訴えがある場合、どのように対応すればいいのだろうか?
今回、認知症の排泄ケアについて、認知症の専門家で、オムツマンの友人のサノちゃん(佐野佑樹先生)に、どのように考えればいいのか寄稿していただいた。
Contents
1.認知症をもつ人の排泄の実際
「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」。
このような様子がみられたら、あなたならどのような排泄ケアを行いますか?
この方(以下;Aさん)は、実際に私が回復期リハビリテーション病院で担当した認知症をもつ患者さんです。
正直、このような様子を見たのが初めてだったので驚きました。
悲しいことに、衛生面を考慮し、家族さんの同意を得たうえで、つなぎ服(拘束着)を着る形になってしまいました。
このように認知症をもつ人にみられる排泄の困りごとは、いくつも存在します。
「トイレの場所が分からずに、間に合わず失禁をする」
「頻繁にトイレに行く」
「オムツやパッドをトイレに流す」
「失禁した衣類をタンスにしまいこむ」
「オムツを外し、便を触る」
など、在宅で生活していくうえで、家族さんの介護負担を増強してしまう大きな要因でもあります。
そのため、認知症をもつ人の心情や状態はどうなのか、なぜこのような様子がみられるのかをアセスメントし、環境を整え、認知症をもつ人が気持ちよく排泄ができるように排泄ケアを行うことが重要となってきます。
「認知症をもつ人」 = 排泄に問題が起きるではない
また、間違ってはいけないこと、忘れてはいけないこととして、「認知症をもつ人」 =排泄に問題が起きるわけではないということです。
例え認知症が進行したとしても、排泄を自立されている方は沢山います。そのために、アセスメントが重要なのです。
2.「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」方が伝えたいメッセージとは
Aさんはつなぎ服(拘束着)を着ることで、上記のような様子はみられなくなりました。
それもそのはず。陰部周辺に触れたくても触れなくするために、つなぎ服を着ているのだから。
Aさんの気持ちよりも、スタッフの介護負担軽減を優先した対応です。つなぎ服になってからの代償はとても大きかったです。
「なんでこれ(つなぎ服)着とるの?」
「外してほしい」
「何が起こっとるのか分からない・・・」
認知症の行動・心理症状(BPSD)における「不安症状」を助長してしまう結果となってしまいました。
「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」様子がみられたことには、何か理由があるのではないか、私たちに伝えたいメッセージがあるのではないか?
Aさんに対して何ができるのか?
そんなときに出会ったのが、「パーソン・センタード・ケア」という認知症ケアの理念でした。
パーソン・センタード・ケアでは、認知症をもつ人の気持ちや行動を理解する手がかりとして、5つの要素があります。
⑴脳の障害、⑵健康状態、⑶生活歴、⑷性格、⑸環境(その人を取り囲む社会心理)でこれらの5つの要素に理由があるとされています。
Aさんで考えてみます。
「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」といった行動には、「目的」があったかもしれません。例えば、5つの要素を使って考えてみると、
⑴脳の障害:言語障害により、気持ちを伝えることが苦手になっている。
⑵健康状態:大腿骨骨折により、上手く身体を動かすことができない。
⑶生活歴:骨折する前は、トイレで自立していた。
⑷性格:一人暮らしで何でも自分の力で対処してきた。
⑸環境:病院という環境になり、スタッフにお願いしにくい。
と、Aさんの状態をまとめることができます。
もしかすると、陰部周辺に不快感があったから、手でオムツを外し、触ってみたのかもしれません。
触ると便が付いてしまったから、手すりに便を付けて拭こうとしたのではないかと考えることができます。5つの要素を見ても、その可能性があると推測できます。
「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」といった行動には、「トイレに行きたい」というメッセージが隠されていたのではないか、そのためにできることを病棟スタッフと話し合い、再度排泄ケアについて考えました。
【補足情報】
認知症の症状
中核症状:概ね「脳の影響」で出現する症状
例:記憶力低下、見当識力低下、遂行機能低下etc.
BPSD(行動・心理症状):概ね「周囲の環境」の影響で出現する症状
例:不安、妄想、幻覚、不潔行為、暴言・暴力etc.
認知症をもつ人を理解する手がかり
①脳の障害
認知症をもつ人の行動に最も影響を及ぼす要素
例:記憶障害、見当識障害、遂行機能障害etc.
②健康状態
例:感覚機能(視力、聴力)、便秘、脱水、栄養失調、痛み、感染症、薬の副作用etc.
③生活歴
・今までどのような人生を歩んできたかによって、物事の考え方や捉え方が違う。そのため、行動と体験を結びつけて考える。
・過去の生活と現在の生活でズレがあると、認知症の症状として出現しやすい
例:生い立ち、職業、習慣やこだわり、好きな・嫌いなこと、人生の転機etc.
④性格
・元々の性格に合わない方法でケアを行うと、不安や混乱を引き起こし、認知症の症状の悪化、進行を助長してしまう恐れがある。
例:社交的と人付き合いが苦手、気が長いと気が短い、頼りたいと世話になりたくない
⑤環境(その人を取り囲む社会心理)
・認知症になっても、感情やプライドは豊かに残っており、周囲の人が自分をどのように思っているかを敏感に感じ取っている。
・支援者が「認知症になると何も分からなくなる」という考えをもっていると、子ども扱いしたり、のけ者にしたり、うそやごまかしをするなどがみられるようになる。このような関わりが続くと、認知症をもつ人は自分らしく生きることを諦め、閉じ込もってしまう。
3.気持ちよく排泄ができる環境をつくる
まずは、現在の排尿間隔を評価するために、起床時、朝食後、午前のリハビリ前後、昼食後、午後のリハビリ前後、夕食後にトイレ誘導の声かけ「トイレはいかがですか?」を病棟スタッフと協力し、行ってみることにしました。すると、約2-3時間に1回排尿が出ていることが分かりました。その評価結果をもとに、日中は病棟のトイレで、夜間はポータブルトイレにて排泄環境を整えました。
すると、夜間におけるポータブルトイレの様子をみると、自らベッド上から起き上がり、トイレに移乗する場面がみられました。このことからも、「オムツを外す」、「便を触る」、「便を手すりに付ける」といった行動の裏には、「トイレに行きたい」といった理由が隠されていたのだと判断でき、排泄ケアのアセスメントの重要性を知ることになりました。
環境を整えた結果、回復期リハビリテーション病院を退院する前には、日中病棟トイレ見守り、夜間ポータブルトイレ見守りへと改善しました。
4.そのほかの排泄ケア
トイレの場所が分からずに、間に合わず失禁をする
排泄の困りごととして、よく見られる様子です。この背景には、パーソン・センタード・ケアにおける5つの要素として、
①脳の障害:記憶力低下により、トイレの場所を忘れている、という可能性が高いです。
この場合には、「できることを伸ばす援助方法」という考え方を活用します。
◯ 監督:最初に「トイレの場所」を説明して見守る
◯ 実演:言葉だけでは理解がしにくい、作業が始められない場合には、
・言語的手掛かり:「この道を真っ直ぐ行き、突き当たりを右に曲がったところにトイレがあります」と説明し、その都度必要な言葉を伝える。
・視覚的手掛かり:この方が理解しやすい言葉で、「トイレ」や「便所」といった貼り紙を見やすい場所に貼る。
このように、「できることを伸ばす援助方法」を活用し、その方のできることをサポートすることが重要です。
頻繁にトイレに行く
これは認知症をもつ人に限らず、高齢者全体に多く見られる様子です。この背景には、パーソン・センタード・ケアにおける5つの要素として、
① 脳の障害:記憶力低下により、トイレに行ったことを忘れている
② 健康状態:膀胱の萎縮・弾力性の衰え、骨盤底の衰え、尿道の狭窄 → 高齢者の特徴を考えることができます。
①が原因で頻繁にトイレに行く場合は、本人に転倒などの可能性がないもしくは少ないのであれば、本人は「トイレに行きたい」と意思があるので、見守ってあげましょう。
②が原因で頻繁にトイレに行く場合は、排尿障害が考えられます。できる限り評価を行い、その結果をもとに主治医と相談すると良いでしょう。
そのほかの対応として、これは経験上のことではありますが、非日常の環境(病院、グループホームやショートステイなどの介護保険サービス)であれば、自宅に比べるとしなくてはいけない役割や仕事、興味が湧く趣味活動などをすることができず、暇な時間を過ごすことが多くみられます。
そのため、より「失禁したらどうしよう‥」という不安に陥り、頻繁にトイレに行く様子がみられる場合があります。もし万が一そのことが原因なのであれば、この方の生活歴を聞き、どのような人生を歩んできたのか、好きなことや得意なこと、役割や仕事はなにをしてきたのかなどを知ることが大切です。
その情報を踏まえ、本人がどのように生活をおくりたいのかを相談し、一緒に楽しみながら環境をつくっていくと、安心し頻繁にトイレに行く様子はみられなくなる場合が多いです。
執筆者 佐野佑樹先生(さのちゃん)
認定作業療法士
認知症ケア専門士
DCM基礎ユーザー
保健学修士(藤田医科大学)
職歴
2011年:医療法人松徳会 花の丘病院 リハビリテーション科 作業療法士
2016年:有限会社ホワイト介護 長太の寄合所「くじら」 管理者
現在、長太の寄合所「くじら」という地域密着型デイサービスで勤務。月に一度、認知症をもつ人と家族の支援及び、地域における横の繋がりを構築することを目的に「D-カフェ・健康測定会」を開催中。また、だれもが地域で認知症とともに歩めるまちを構築する目的で、市内における認知症カフェをツールとした地域づくり、県内における若年性認知症の人と家族のつどいづくり、認知症作業療法士の仲間とともに認知症専門医が中心に行っているメモリーカフェにて回想法の実践,一般・専門職向けに研修会を開催するなど、地域活動を実施している。
所属団体
公益社団法人 認知症の人と家族の会 若年性認知症の人と家族のつどい 世話人
日本作業療法士協会 認知症作業療法推進委員(三重県担当)
特定非営利活動法人 うらら 理事
論文掲載
1)佐野佑樹,澤俊二,杉浦徹・他:回復期リハビリテーション病棟における認知症の評価−認知尺度と行動観察尺度を併用して用いる有用性−.理学療法科学,2015,30(6):955-959.
2)佐野佑樹,北正美,田中明美:地域課題に取り組む「D-カフェ・健康測定会」の実践,認知症ケア事例ジャーナル,2017,第10巻第2号:129-132.
3)佐野佑樹,北正美,田中明美:デイサービスにおける認知症をもつ人の「だれかの役に立ちたい」という心理的ニーズを満たすかかわり,認知症ケア事例ジャーナル,2018,第11巻第2号,:97-104.